大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 平成8年(ラ)97号 決定 1996年8月20日

抗告人

号畑ヨリ子

相手方

黒木武臣

外五名

主文

1  原審判を取り消す。

2  本件を大分家庭裁判所杵築支部に差し戻す。

理由

1  抗告人は、大分家庭裁判所杵築支部が平成八年四月二六日にした遺産分割申立てを却下する旨の審判(原審判)に対して即時抗告を申し立てたが、その趣旨及び理由は、別紙「即時抗告申立書」の写しに記載のとおりである。

2  一件記録によれば、以下の各事実を認めることができる。

(1)  被相続人黒木ヲユリ(本籍・大分県東国東郡国東町<番地略>)は、昭和六二年一二月一九日に死亡したが、その相続人は、抗告人と相手方らであり、他に相続人はいない。

(2)  抗告人と無田元男は、平成六年一月二四日、相手方らに対して遺産分割審判の申立てをし、これが同年一〇月一四日に調停に付されて、平成七年一二月八日まで五回の調停期日を重ねたが、話合いがまとまらずに調停不成立となり、審判手続が再開されて、平成八年四月二六日に原審判がなされた。なお、無田元男は、調停手続が進行中の平成七年六月二三日に、上記の遺産分割審判の申立てを取り下げた。

(3)  相手方らは、弁護士吉田孝美を代理人として審判手続及び調停手続を行ってきたが、同弁護士は、相手方らの代理人として、平成六年七月一四日付けで、銀行預金債権のみの本件遺産の分割につき審判による法的解決を望む旨の意見書を提出している。

(4)  上記の手続を通じて、被相続人の遺産が銀行預金一〇三〇万円ないし一〇四〇万円であり、そのうち八〇〇万円ないし八一〇万円は既に一部の相続人に分割済みであって、未分割のまま残存しているものは銀行預金二三〇万円のみであることに争いはなく、当事者間では、無田元男が相続人であるかどうかと、上記銀行預金の具体的な配分方法が争われている。

3  以上の事実に基づいて検討する。

金銭その他の可分債権は、実体法上は、相続開始とともに法律上当然に分割されて各相続人に帰属すると解される。しかしながら、遺産分割においては、遺産に含まれる金銭債権も、他の相続財産とともに分割の対象とされることが一般的であって、金銭債権は常に遺産分割の対象にはならないとはいえないこと、遺産が金銭債権だけであっても、特に本件審判手続のように、被相続人の遺産の一部が既に相続人の協議により分割され、金銭債権の一部だけが未分割のまま残存している場合には、相続人間で、その具体的な帰属を定める必要性が強く認められること、その場合には、家庭裁判所における遺産分割手続が最も適切な法的手続であると考えられるところ、本件では、いずれの当事者も、前記の預金の帰属を遺産分割の審判で定めることに同意していると認められることなどからすれば、本件の金銭債権を遺産分割の対象とすることは、遺産分割の基準を定めた民法九〇六条の規定の趣旨及び家事審判制度を設けた趣旨に合致するものということができ、本件の遺産分割審判の申立ては適法になされたものというべきである。

4  よって、本件の遺産分割審判の申立てを不適法として却下した原審判は相当でなく、本件即時抗告は理由があるから、家事審判規則一九条一項により、原審判を取り消して、本件を大分家庭裁判所杵築支部に差し戻すこととする。

(裁判長裁判官友納治夫 裁判官有吉一郎 裁判官松本清隆)

別紙即時抗告申立書<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例